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2009年9月1日編集だより

小岩井忠道

「過飽和状態」という昔、化学の授業で習った言葉を思い出した。正確な説明は自信がないのでパスする。衆議院における自民党の議員数が実はとっくに許容量をオーバーしていたのに、見かけ上は変化がなく、それがちょっとしたきっかけで一挙に実像が顕在化。そんなイメージから、こんな化学用語を思い出した、ということだろうか。

今回の報道を通じ、大いに興味深かったことの一つが選挙調査もよく当たるようになった、ということだ。あるキー局が投票日のわずか2日前に実施した(当然、高い費用をかけて)直前予測調査の結果と投票結果がまるで違ってしまった。親しいキー局選挙担当者の困惑する姿を目の当たりにしてから10年とたっていない。事前調査は当たらない、とあきらめていたような時期もあったということだ。ところが、今回はどうか。1週間前の予測報道はどの新聞もほとんど当たっていた。

投票終了を待ちかねたように各テレビ局が一斉に報じる出口調査結果も、選挙報道ではなくてはならない存在になったが、こちらもおおむね各放送局とも実態に近い数字を出していた。実は出口調査には特段の感慨がある。出口調査の重要性にいち早く気づいた日本のメディアは日本テレビだと思うが、問題は金がかかることだ。新聞もテレビも長年、開票所に人をはりつけてちょっとでも早く開票数をつかみ、当確報道をする。これが国政選挙報道の柱だった。勝つのは自民党に決まっている。従ってどのくらい勝つか、特定の注目候補が当選するかどうかが大きな関心事だから、今回のような選挙から見れば、多くの国民にとってはどうということのないことに血道をあげていた、といっても多分言いすぎではないだろう。出口調査に大金をかける余裕など、特に新聞社にはなかったということだ。

編集者が通信社勤務時代、新聞者より先に出口調査の重要性に気づいたキー局の意向を受け、合同出口調査のまとめ役の一人としてかかわっていたころの話である。わずか数十の選挙区しか調査しないという時もあった。ほとんどのキー局が加わってくれたものの、こんな小規模でどんな効果があるか、最初は半信半疑だった。今回の選挙結果を見て、あらためて納得する。当時、合同出口調査に参加したキー局がほしかったのは、調査対象になった選挙区の候補者の当落もさることながら、それ以上に比例でどの党がどのくらいの支持を集めているか、という数字だったのだ、と。

8月31日の日経新聞朝刊に共同通信の実施した出口調査結果に基づく分析記事(共同配信記事か?)が載っている。この出口調査は日経を含む共同通信加盟新聞社だけでなく、昔同様、一部、民放キー局も参加していると思われる。全国300の小選挙区で、その選挙区の有権者の縮図となるような投票所を選んだ、と書いてあった。昔とは大きな様変わりである。数十の選挙区だけでも確か億の費用がかかったから、今回の出口調査にいくらつぎ込んだのか、参加各社の経理担当者の顔が浮かぶ。

出口調査の方法が書かれている記事の中で、もう一つ目を引いた数字があった。回答者総数が男性14万706人、女性14万42人とあったことだ。出口調査というのは、各投票所の大きさに応じて調査対象者の数が決まるだけでなく、恣意的な要素が入らないよう回答者の選び方も決まっている。編集者の経験では、投票所から出てくる投票者の何人おきに調査票を渡して回答してもらうかが事前に決まっていた。ところが、意に反して男性の回答者が多くなってしまう。編集者がかかわったころは、毎回、そんな結果になってしまった、と記憶している。「断る女性が多いからでは」「夫婦がふたりそろって出てきたりすると妻の方に答えてほしいのに夫の方が回答してしまうからでは」などと同僚は言っていたが、確証はなかったようだ。

ところが今回の調査結果はどうか。回答者数の男女差などほとんどない。当選した女性議員が増えただけではなく、投票行動においても女性の毅然とした振る舞いがはっきりと出たということだろうか。

出口調査における回答者の男女比率の変化と選挙結果の関係はいかに。だれかそんな解説をしてくれないものだろうか。

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