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2007年8月22日編集だより

小岩井忠道

四半世紀前になるが通信社記者時代に「コンピューター洪水」というタイトルの連載記事を書いたことがある。皆がコンピューター、コンピューターともてはやすので、うまくいっていない例、計算違いの話も相当あるはず、と探し回ってみた。

ワープロソフトで注目されている人物がいるというので大阪まで取材にいったことがある。おそらくまだローマ字日本語転換ソフトにいろいろ問題があった時期だったのだろう。肝心のソフトの内容についてどの程度取材したのかも忘れてしまったが、一通り話を聞いた後、近くで一杯飲んだ時の話だけをかすかに覚えている。

ワープロソフトにかかわるまでの経歴を尋ねたら「アミューズメント関係」という。さらに聞くと「クラリネットを吹いていた」。それ以上は、尋ねなかった。言語処理などにあまり関係のない仕事をしていたことは分かったので。「ところで収益はどうか」という質問の答えが、なかなか刺激的だった。「いま利益など上がらなくてもかまわない。いずれ株式上場したときにどんと金が入ってくるから」

ソフトウェア労働者の組合も尋ねた。組合員が少数の共産党系組合だったと思う。劣悪な労働条件に絡む話を次々に聞かされた。急速に成長した(その後も大きくなり続けた)ソフトウェア会社を取材したこともある。批判めいたことを書かれるのは想定外だったらしく、総務部長だったかから、猛烈な抗議の電話が来たことを思い出す。

東京新聞23日朝刊総合面に「深刻SE不足 夢持てぬ負の連鎖」という引野肇記者の記事が載っていた。それを読んで、昔のことを思い出した、というわけだ。

「SEの職場は残業が多いことで有名だ。かつての3K(きつい、汚い、危険)ではなくて、新3K(きつい、帰れない、給料が安い)ともいわれる」。2、30年前より、もっと厳しい職場になっているということだろうか。さらに記事には、日本の大学では「コンピューター科学の専門教育がほとんど行われていない。それを教える教員も少ない」という大岩元・慶應義塾大学環境情報学部教授の言葉が紹介されている。さらに「システムを発注する会社に能力がないので、インドや中国の会社に怖くて注文できない。だからレベルの低い日本の会社でも仕事は取れる」という筧捷彦・早稲田大学理工学部教授の話も。

インドや中国に優秀なSE(システムエンジニア)がどんどん増えているのに、まだ日本のソフトウェア産業は席巻されずに済んでいる。「日本語という言葉の壁と日本社会のITへの無理解がある」からというのでは、まさに「夢持てぬ負の連鎖」という記事のタイトル通りなのだろう。

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