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2007年8月16日編集だより

小岩井忠道

公開中の英映画「魔笛」を観た。数々のシェークスピア劇の映画化でも高い評価を得ているというケネス・ブラナー監督・脚本の作品だけに、モーツァルトの名作オペラの単なる再現ではない。冒頭に昔観た古い映画を思わせる場面が出てきて「オヤッ」と思わせる。この序曲の部分だけでも、「西部戦線異状なし」、「影武者」、「チャップリンの独裁者」といった名画のシーンがブラナー流に撮られ、挿入されているとプログラムで知った。舞台は第一次大戦の戦場に移し替えられているのだ。

「魔笛」というのは、破天荒とも思われる筋もまた魅力の一つなのだろう。見事な歌声を聞かせる「夜の女王」が最後に敗北、抹殺されて、残り大半がめでたしめでたしとなるのは映画も原作と同じ。しかし、悪人とはいえ、女主人公パミーナの母親だ。これじゃあ、ちょっと気の毒ではないの。パミーナだって自分だけ好きな男と結ばれて気がとがめるのでは? などと気にするようでは、この名作の鑑賞者としては失格!ということだろう。

筋の運びはさておき、幸い「魔笛」は昨年12月に、ポーランド国立ワルシャワ室内歌劇場オペラの来日公演で一度観ている。米国人ソプラノ歌手の「夜の女王」にすっかり感服した記憶も新しい。さらに数年前には、木管(クラリネット、オーボエ、ファゴット、ホルン各2)とコントラバス1という編成による「魔笛」全曲演奏というのも聴いている。高校の後輩がオーボエ奏者として出ていたからだ。

そのときのパンフレットで、こういう楽器編成の演奏は「魔笛」にかかわらず昔、オペラ劇場のある欧州の都市の街頭でしばしば行われていたと知った。当たり前の話だが、名作として後々まで人を楽しませるオペラも、最初はだれも知らない曲ばかりだ。街角で演奏して1人でも多くの人に曲になじんでもらい、劇場に足を運ぶ気にさせる。そうした目的で、このような小編成での街頭演奏が行われた、ということだ。

どんな名作でも、初めて観てたちまち感激、とは本場の観客にだって簡単にできることではなかった。まして、たまにしか観ない人間が、初めてのオペラに感動などというのはおこがましい。そう考えれば、今回の映画には最初から最後まで退屈しなかったのも、これまで別のオペラ作品で何度か味わった退屈も納得!ということになる。

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