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2006年10月30日編集だより

小岩井忠道

女性の労働時間は世界平均なのに、男性の労働時間だけは世界一長い。そのくせ、労働生産性となると主要国の中で低い。子供の科学リテラシーはまだ、世界の上位にあるのに、大人になると先進国の中で下位になってしまう―。

日本学術会議「学術とジェンダー委員会」主催のシンポジウム「ジェンダー視点が拓く学術と社会の未来」を傍聴し、渡辺美代子・東芝研究開発センターグループ長の報告に、冒頭から、「ウーン」と考え込んでしまった。

これほど惨憺たる状況にあるとは、想定外である。日本人成人男性の多くが、自慢できるような日々を送っている、とも思ってはいなかったけれど。

中道仁美・愛媛大学農学部助教授、辻村みよ子・東北大学大学院法科研究科教授に続き、最後に報告した、大沢真理・東京大学社会科学研究所教授の締めの言葉が、なんとも簡潔で厳しい。

「ジェンダー視点に切り替えないと、日本社会の未来はない」

男性世帯主中心の家族主義は、行き詰まっている。青年の結婚難、超少子化、働き盛りの超長時間労働、その結果としての産育の困難、中高年男性の自殺率の高さ…。これらも、男性世帯主を中心とする日本の社会政策のせい、ということのようだ。

確かに、長年のサラリーマン生活の経験からも、思い当たることが多い。ジェンダー視点で、ぜひともこの出口なしという状況を打開してもらいものだが、何が正しいかということと、その正しいことが実現できるかどうかは、また別の話だろう。

「ジェンダー視点に切り替えることで、うまく行った国、あるいはうまく行きつつある国というのは実際にあるのか?」。あらかじめ配られた用紙を使って、休憩時間に、大沢教授あての質問を出してみたら、幸運にも司会者が、後半の討議で取り上げてくれた。

「日本ほど男性世帯主中心の国がないことは確か。オランダ、ドイツはかつてそうだった。しかし、オランダは、インフレ、財政赤字から脱却するため、男の労働時間を減らし、ワークシェアリングするといった方法で労働市場を変え、20年くらいかけて『オランダの奇跡』を実現した。ドイツも男性世帯主中心から脱却しつつあり、実際に低い出生率も下げ止まり、上向きになりつつある。日本はこのままではどうやっても駄目」

何とも、明快で、気合いの入った答えであった。

「学術とジェンダー委員会」は、11月末までと活動期限が切られている。近々、日本社会に対する明快な処方箋(報告書)をまとめてくれるものと、期待したい。

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