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2006年10月9日編集だより

小岩井忠道

映画「夜のピクニック」を観た。舞台は県立北高校という架空の名前になっているが、私の母校である。戦前から修学旅行というものがなく、その代わり、年に1度、70数キロをひたすら歩き通す「歩く会」という行事を延々と続けている。

原作者の恩田陸さんは後輩だ。20年ほど前、原作者自身が経験したこの行事を基にして書かれた小説の映画化、ということになる。

恩田さんとは2世代も異なるので、映画(原作も)と、われわれのころとはだいぶ様子は異なる。女生徒は数えるほどしかいなかったから、こんな小説は生まれるはずもないが、やはり懐かしい。

映画の通り、まず40キロほどを整列して歩いた後、残り30数キロは自由競争だ。大半の生徒は「歩き通せば満足」というところだが、運動部は体裁もある。大体、部ごとに集団をつくって走る。2年生のときに雨で途中中止になってしまったこともあり、3年の秋は当然、完走を目指した。しかし、季節は秋である。3年生はすでに練習をやめて数カ月たっており、体力もピーク時よりだいぶ落ちていたらしい。猛烈に疲れると、足より先に腕が上がらなくなると、初めて知った。両腕をだらりと下げたままでさらに、何とか走り続けて30数キロ。ゴールの母校はすぐそこだ。

母校の茨城県立水戸一高は、かつて水戸城本丸があった高台にある。どの方角から来ても、最後に長い坂がある。映画に出てくる坂とは別だが、この坂を見上げた途端に「こりゃ駄目だ」と観念した。「先に行け」。それまで時々声を掛け合いながら走ってきた下級生たちに最後の励ましを送り、残りの1キロほどを歩いてしまった思い出がある。

さて、映画の出来栄えだ。川又昻、深作欣二、柳町光男、小泉堯史。映画ファンなら知らない人はまずいない名カメラマン、監督を輩出している高校である。もともと一言も二言も多い土地柄なうえ、映画にもうるさい先輩後輩が多い。すでに同窓生有志でつくるメーリングリストなどを介して、さまざまな感想が飛び交っている。

「あの映画はつまらない。俺たちのころは木製の銃を担いで歩かされたものだ」。戦中にこの行事を体験している大先輩からこんな感想も聞かされたが、評価は概ね良好というところだろうか。1,2の場面をあげて「ここはちょっとしっくりこない」といった趣旨の感想をメールで送ったら、恩田陸さんの小説の多くを読み込んでいる後輩から、すぐさま実に的を射た指摘が返ってきた。

「この作品はファンタージーとしてみるべきである」 恩田陸さんと米国の高名なホラー作家、スティーヴン・キングの作風についても対比、解説する気合いの入った反応だったので、再度、メールを送った。

「ホラー小説がはやるのと、似非科学がはやるのと関係はないだろうか?」

こちらには、まだだれからも応答はない。

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